熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「い……っ! た……っ」


 花は一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 ただ、擦りむいた膝には血が滲み、ストッキングは伝線して無残な姿に成り果てていた。


「怪しいから鞄にGPSを仕込んでみたら案の定だったわ! アンタ、この人と同じ会社の女でしょ!? 人の旦那を寝取ろうなんて、いい度胸してんじゃないの、クソ女!!」

「ヒトノ……ダンナ?」


 花は人生で初めて自分の耳を疑った。昔から地獄耳で有名だった花は、小銭の落ちる音を聞き逃したことはなかったというのに、だ。

 地べたに両手をついたまま花が顔を上げれば、閻魔大王を思わせる迫力の女性が仁王立ちしている。

 
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