熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「お前が早く出ていかないから、吹きこぼれちゃっただろ! なんなんだよ、ほんとに!」


 代わりに放たれたのは、高音の威勢のよい声だ。

 アラ汁を背に、花へ向けて抗議の声を上げたその子は、どこからどう見ても子供の成りをしていて、花は戸惑いを隠せなかった。


(なんで、こんなところに子供がいるの?)


 背は花の胸に届くくらいで、黒髪短髪のよく似合う可愛らしい男の子だ。

 見た目は完全にランドセルの似合う小学生だが、つくもの暖簾と同じ濃紺の襟がついた、白い和服コックコートをまとっている。


(まさか、この子がつくもの料理長なんてことないよね……?)


 花はにわかに信じられない気持ちであったが、その子以外にこの場所で、それらしい人は見当たらない。

 
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