熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「あ、あの……ヒトノダンナ、とは……?」

「しらばっくれてんじゃないわよ! つーか、知らないとか言わせないし! この人はね、去年私と結婚したばかりなの! それなのにその幸せをアンタが壊してくれたのよ! アンタは必ず地獄に落ちるわよ! いいえ、今すぐあの世に送ってやるから覚悟しな!!」


 元号は令和に変わり、世の中は物騒になったものだと花は思う。

 初対面の女性にまさか、あの世に送ってやると糾弾されるような生き方を花はこれまでしてきたつもりはなかった。


(っていうか、結婚してるって……)


 つまり花はそこで初めて、杉下が既婚者であることを知ったのだ。

 社内では杉下に言われた、「会社の奴らにバレると茶化されそうだから……」と言う言葉を信じて関係を内密にしていたのだが、まさかあの言葉にこんな裏が隠されていたなんて、思いもしなかった。

 
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