熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

(今の私をお母さんが見たら、なんて言うだろう……)


 バカな男に引っ掛かってと怒るだろうか。

 それとも、花は何も悪くないと励ましてくれるのか。

 花は心の中で自問自答しながら、そっと手鏡を鞄の中へと戻した。

 ──否、戻したつもりだった。


「……えっ」


 次の瞬間、つるん、と花の手元から滑り落ちた手鏡は、呆気なく硬いコンクリートの上へと落下した。

 同時に、ガシャン!という鈍い音を響かせ、四方八方へとライトアップの灯りを四散させる。

 花は一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 というより、現実を受け止めたくなかったのだ。
 
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