熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「う、嘘、だよね……?」
引っ越し屋の荷物の中に入れて、万が一、鏡が割れたら大変だと思ったから手鏡を自分の手荷物の中へと入れたのだ。
それなのに、まさか──自分が落として割ってしまうだなんて、花は夢にも思わなかった。
「げ、現実……?」
再び力なくその場にしゃがみ込んだ花は、かじかむ手を伸ばして手鏡の本体を拾い上げた。
しっとりとした感触は、間違いなく日頃から花が手にしているものに間違いない。
(ああ、これはすべて現実なんだ──)
悪い夢でもなく、すべて自分の身に起きていることなのだとようやく事態を受け入れた花は、スン、と鼻を小さく鳴らした。