熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「拾わなきゃ……」


 唇をきゅっと噛みしめると、鞄の中から手鏡の入っていた金襴袋(きんらんぶくろ)を取り出し、手始めに本体をその中へとそっと戻して抱え込む。

 次に花は砕け散った鏡をひとつ一つ拾い集めた。

 拾いこぼしのないように、とにかく丁寧に大切に集めていく。

 そうして花が、目につく鏡の欠片の最後のひとつを拾おうと手を伸ばしたとき──、


「お前さん、とんだ災難続きだったのぅ」


 誰かが花に、声をかけた。


「え……?」


 突然のことに驚いた花は弾かれたように顔を上げたが、自分の周りにはそれらしき"人"は見当たらない。

 
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