熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(気のせい……?)
花は、再び鏡の欠片へと手を伸ばそうとした。
すると、どこからか伸びてきた小さな手が先に欠片を拾い上げ、花の前へと差し出した。
「ほれ、これで全部だら」
語尾の"だら"は、静岡県東部でよく耳にする方言だ。
声の主は驚く花の手を開かせ、ちょん、と手のひらの真ん中に鏡の欠片を乗せてくれた。
「あ、ありがとう……ございます……」
「いやいや、たいしたこっちゃない。それよりもお前さんがこれで怪我でもしたら、そいつも浮かばれないからのぅ」
ぷにぷにのピンクの肉球がついた手だった。
手の甲と言っていいのかわからないが、甲から腕に至るまで、全身がモフモフの焦げ茶色の毛で覆われている。
触り心地は抜群に良さそうだ。
クリっとした垂れ目の周りはお決まりの黒い縁で囲まれているかと思いきや、肌色の毛で丸く綺麗に囲まれていた。
ぽんっと前に出たお腹の毛は白色だった。そして背中には、日本昔ばなしに出てくるような編笠を背負っている。