熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(なにこれ、夢……?)
今、花の目の前にいる"それ"は、どこからどう見ても"たぬき"だった。
だけど、本物のたぬきとは似て非なるものだ。
なぜなら二本足で立つその姿はまるで、先程まで花が愚痴を聞いてもらっていた信楽焼きのたぬきの置物と、瓜ふたつに思えた。
「しっかし、お前さん、てっきりピーピー泣くかと思ってたが全然泣かんなぁ。なかなかに肝が座っておる、感心感心」
そう言って、きゅっと短い腕を組んだたぬきは花を見て、「うんうん」と頷いていた。
反対に花は呆然としたまま、上手く言葉が出てこない。
「ほれほれ、ボーッとしとると、また落とすぞ。とりあえず、さっさと袋の中に鏡をしまったほうがいい」
「え……あ……、は、はい……。すみません……」
「そうそう、それでいい」
たぬきに言われるがまま、花は鏡の欠片を金襴袋にしまい入れた。
割れた鏡の欠片は粉になってしまったものを除けば、多分これで全部だろう。