熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「あ、あれ……?」


 けれど、ここに来るまでに、突き当りに宿があるなどという案内は出ていただろうか。

 そもそも、携帯電話の地図アプリを見る限りでは大通りに出られるはずだった。


(おかしいな……)


 思わず花は首をひねったが、とにもかくにも選択を間違えたのは明白だ。

 花は回れ右をして、今来た道を引き返そうとした。


『……戻らないで』


 するとその瞬間、ふわりと辺りの空気が変わって、何が花にそっと耳打ちをした。


『……このまま真っ直ぐよ。大丈夫』

(な、なに……⁉)


 花は慌てて辺りを見渡したが、自分以外の人は見当たらない。

 空耳かとも考えたが、空耳にしてはやけにハッキリと声が聞こえた気がした。

 
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