熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「はい。それに大楠神社は、樹齢二千百年とも言われる大楠があることでも有名です」

「え……樹齢二千百年ですか⁉」


 驚いた花は素っ頓狂な声を上げた。

 そんなに昔からある大楠など、聞いたこともない。

 以前、ぽん太とちょう助と一緒に熱海梅園へ行ったときには、樹齢百年の梅の木があると聞いて驚いたが……。

 今回は、樹齢二千百年。

 約二千年前といえば弥生時代、静岡市民にはおなじみの登呂遺跡(とろいせき)が現役だった頃だろう。

 子供の頃に遠足で登呂遺跡へ行くというのは静岡市民の定番だが、当時はあまり関心が持てなかった。

 しかし、大人になった今なら二千年も前のものが、現代に残っていることがどれほど貴重で素晴らしいことか、よくわかる。

(約二千年前から生きている木……)

 付喪神の百年以上生きているという話を聞いただけでも壮大な話に思えたのに、二千年もの間、自然の中で生きてきたものがどのような姿形をしているのか想像するだけで花は胸が踊った。


「この熱海でわしより長生きしとるのは、大楠殿くらいだらぁ」


 フォッフォッとぽん太が軽快な笑い声を響かせる。

 そう考えると呑気に茶を飲むこのぽん太も、貴重な存在に違いないのだ。

 ぽん太がどれくらい生きているのか花は以前に本人に聞いたことがあるのだが、「そんなもんは忘れた」とはぐらかされてしまって深く掘り下げることはできなかったけれど……。

 
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