熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「このまま真っ直ぐって……。あの宿に行けってこと……?」
季節は一月、身も心も深深と冷え込む季節だが、突き当りの宿から漏れる明かりは不思議とどこか温かい。
花は着ているコートの前をギュッと握り締めると、意を決して足を前へと踏み出した。
(そこの宿の人に、駅までの近道がないか聞いてみよう)
そうして花は、突き当りにある宿に向かって歩を進めた。
──ここ、熱海では平坦な道を見つけることのほうが難しい。
人ひとり通るのがやっとの細い坂道を登ると、途中から格調高い石畳へと移り変わった。
石畳はそのまま前庭から玄関へと繋がるエントランスを通り、紺色の暖簾の下まで続いていた。
花が細道から見ただけではわからなかったが、想像以上に間口が広い。
二階建ての木造の建物は重厚かつ趣のある佇まいをしており、古くからこの地に息づく歴史を感じさせた。
瓦屋根につけられた木製の看板には流れるような達筆で宿名が描かれている。