熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「熱海温泉、極楽湯屋(ごくらくゆや)つくも……」


 見た限りでは、歴史情緒あふれる老舗旅館のようだ。

 花は何かに(いざな)われるように【極楽湯屋つくも】の暖簾をくぐると、広々とした玄関に立ち、宿の奥に向かって声を投げた。


「夜分遅くに、すみません! 熱海駅までの近道を教えていただきたいんですけど、どなたかいらっしゃいませんか?」


 明かりがついているということは、営業中で間違いない。

 それなのになぜか人の気配は感じられず、花はキョロキョロと周囲を見渡してから首を傾げた。

 彫刻欄間と暖色の明かりに包まれた空間は、日本家屋特有の品格を感じさせる。

 玄関は家の顔とはよく言うが、隅々まで掃除の手が行き届いているようだった。

 
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