熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(すごく綺麗な人……)
どこか浮世離れした男の容姿に、花は見惚れた。
色っぽく流し目などされたら、女の子たちはイチコロだろう。
「……おい、なぜここにいるのかと聞いている」
けれど、形の良い唇が紡いだのは、実に温度のない言葉だった。
色っぽいどころか射るような視線を向けられ、我に返った花は慌ててここに来た目的を男に告げた。
「す、すみません。帰ろうとして、道に迷ってしまって……。あの……熱海駅への行き方を教えていただこうと思って立ち寄ったのですが、近道など知っていたら教えていただけませんでしょうか?」
「……チッ」
花の伺いに、男は舌を打った。
面食らった花は目を瞬かせると言葉を失くし、固まってしまう。