熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(な、何か失礼なことを言ったかな……?)
というよりも、男はここの従業員なのだろうか。
百歩譲って宿の客であれば仕方がないが、仮に従業員だとすれば、男の態度はあまりに横暴かつ失礼極まりない。
「お前が道に迷ったかどうかなど、知ったことではない。熱海駅になど歩いていれば、いずれ辿り着くだろう」
「え……」
「だから、とにかく帰れ。ここにいられたら迷惑だ。どうやって迷い込んだのかは知らないが、二度とこの場所に足を踏み入れるな」
棘だらけの言葉を吐いた男は、威圧的に花を睨みつけた。
ここにいられたら迷惑だと言い切ったということは、やはり男はここの従業員に違いない。
(だとしたら、道に迷った観光客に対してこの態度と物言いは大問題でしょ⁉)
男の言動は横暴だとか失礼極まりないなどというレベルの話ではなかった。
人としてどうなのか?と思うのは、花でなくとも考えることだろう。
腹は立つが、反論するのもバカバカしい。
花が今そう思うのは、時間に急いているのとここに辿り着くまでに起きた出来事に、疲弊していたせいだった。
これ以上の厄介事に巻き込まれたくない。花がそう思って返事に迷っているうちに、また男が鬱陶しそうに口を開いた。