熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「薙刀 銘 備前国長船住人長光造は、鎌倉時代に製作された、国宝でもある貴重な薙刀(なぎなた)なのですよ」

「え……っ、こ、国宝⁉」

「ええ。その薙刀の付喪神が率いる御一行様が、数十年に一度の周期で、ここつくもに泊まりにくるのですが……。それがまさに先ほどご連絡をいただきまして、来週末にいらっしゃることになったのです」


 黒桜はニッコリと笑って答えたが、花は「そうなんですね!」と軽々しい返事はできなかった。

 名前だけでもすごいとは思ったが、まさか国宝だとは夢にも思わなかったのだ。

 たった今、黒桜は鎌倉時代に作られたものだと言ったが、それは何百年前のことなのかと花は首をひねって考えた。
 

(ダメだ。とにかく、すごいということしかわからない……)


 国宝に指定されるほどのものなら、歴史的価値は計り知れないに違いない。

 そもそも国宝と呼ばれるものを実際に見たことのない花は、まさかここ、つくもで初めて巡り合うことになるとは思わなかった。

 
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