熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「た……丹沢花と申します」

「そうか、花か。ええ名じゃなぁ」


 うんうん、と頷くたぬきは、またニンマリと笑ってみせる。

 なんというか、堂々たるたぬきだ。たぬき側は人である花に対して、特別驚く素振りも見せない。

 考えてみたらサンビーチで会ったときからそうだった。まるで自分と人が会話ができるのは当然で、日常のことであるかのようだ。


「今日は一段と冷え込んでいたから、花も寒かったろう。真冬の、おまけに夜更けにサンビーチで黄昏れていたら尚の事じゃ」

「は、はぁ……」


 自然と花の肩からは力が抜けていた。

 たぬきの横に立つ男……八雲よりも余程人らしいたぬきである。

 
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