熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「花がサンビーチに来る前にな、わしもあそこで"ある問題"について頭を悩ませ黄昏れておったんじゃ。そしたらお前さんが来て、わしの隣で愚痴りだしたというわけじゃ。お前さんに話しかけることができたのは、わしの神術と……何より、お前さんが"こちらの世界のもの"を連れていたのが大きな理由じゃ」
「こちらの、世界のもの……?」
ぽん太の言っている言葉の意味がわからず、花は思わず首を傾げた。
「わしは、現世で数百年を生きる信楽焼のたぬきの付喪神なんじゃ」
「つくも、がみ……?」
「ああ。そしてここ、【熱海温泉♨極楽湯屋つくも】は、現世と常世の狭間にある付喪神つくもがみ専用の宿なんじゃ」
「付喪神、専用の宿……?」
「通常、人がここ【つくも】に足を踏み入れることはない。余程そちらの世界に精通していれば別だが……。花は、わしと同じ付喪神を連れていたから、ここに辿り着けたんじゃよ」
もう何がなんだか、花の頭の中は混乱で揺れていた。
ぽん太の言うことを要約すればこうだ。
まず、ぽん太はやはり信楽焼のたぬきの置物だった。けれどただの置物ではなく、数百年を生きている付喪神で……。
そしてここ、つくもはぽん太のような付喪神が泊まりに来る温泉宿であるということ。
現世と常世の狭間にある温泉宿。
普通なら、人が来られる場所ではない。
だけど花が今日ここに辿り着いたのは、花がぽん太と同じ【付喪神】を連れていたからということだが……。