熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「わ……っ、私、付喪神様なんて連れてません!!」


 花は慌てて否定した。

 寧ろ、これまでの状況から疫病神は連れているかもしれないが、付喪神など寝耳に水だ。


「いんや、連れておるぞ。そもそも付喪神というのはの、長い年月を経た道具などに魂や精霊などが宿ったもののことをいうんじゃ。"九十九(つくも)"とは、百に一足りない数のことだが、それほどまで長く使われた道具が妖怪化すると、"付喪神"になると考えられておる」


 「まぁ、諸説あるがな」と付け加えたぽん太は、目を糸のように細めて微笑んだ。


「要は、今で言う"もったいないオバケ"みたいなもんじゃ。付喪神の中にはオバケや妖怪と揶揄されることを嫌がるものもおるがの。長い間、大切にされていたものには魂が宿る。それが付喪神となるんじゃ」


 ぽん!と右手でお腹を叩いて鳴らしたぽん太は、パッと信楽焼のたぬきの置物に変化した。

 思わず花が「あっ」と声を漏らすと、またすぐにモフモフたぬきの姿に戻ってみせる。


「どうじゃ、これで信じたら? そして……花が連れている付喪神については、花もよく知っていることじゃろう」


 ──付喪神とは、長い間大切にされてきた"もの"に魂が宿った存在のこと。


(長い間、大切にされてきたもの……)


 そこまで考えた花が辿り着いたのは、鞄の中に入っている"あるもの"の存在だった。

 
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