熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「もしかして……お母さんの形見の手鏡……?」
呟いて、花は慌てて鞄の中から手鏡の入った金襴袋を取り出した。
その瞬間、花の手の上の金襴袋がまばゆいばかりの光を放ち、辺りを白く染め上げた。
(な、なに……⁉)
あまりの眩しさに花が目をつぶると、不意に身体が真綿に包まれたかのような感覚に襲われた。
それはまるで今は亡き母に、そっと抱き締められたかのようで……。
花の心は、灯火が点ったかのように温かくなった。
「──ようこそ、お越しくださいました。手鏡の付喪神であられる鏡子様と、そのお連れ様でいらっしゃいますね?」
「え……?」
けれどすぐに、花は現実へと引き戻される。
聞き慣れない声に驚き、パッと目を開いた花の目に飛び込んできたのは、真っ黒な着物に身を包んだ青年だった。
八雲ほどではないが綺麗な顔立ちをした痩身の男で、黒く長い髪を後ろで結っている。
やけに青白い肌も特徴的だ。