熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「驚かせてしまって、ごめんなさい。それと……いつも大切にしてくれて、どうもありがとう」
女性の声は、先ほど花が細道で聞いた声と同じだった。
(ああ、そうか──)
花はすべてを察して息を呑む。
和服姿のこの女性が、花をここへと導いたのだ。
「もしかして……あなたは、私の手鏡ですか?」
「……はい。はじめまして、鏡子といいます」
「鏡子さん……」
手鏡は、名を鏡子というらしい。
鏡子はそっとまつ毛を伏せると、花に対して頭を下げた。
「あなたを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
「巻き込んだのは、この女のほうだろう」
(しゃべった……‼)
瞬時に花がそう思ったのは、今の今まで置物のように黙り込んでいた八雲が口を開いたからだ。
「わ、私が巻き込んだってどういうことですか⁉」
鏡子と八雲の間に立ったまま、花が八雲へと目を向ければ、八雲はまた鬱陶しそうに目を細めてから自身の着ている着物の袖の中に手を入れた。