熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「だがしかしな、八雲……! 花はここへ来るときには付喪神を連れていたから迷わず来れたが、鏡子を連れていなければただの丸腰の人なんじゃ。現世に帰る途中で道に迷う可能性もある!」
「え……」
花は、ぽん太の言葉を聞いて目を丸くした。
細道を歩いてここまでは一本道だったので、どう考えても元の道に戻るのに迷う道理はないと考えていたが、そうではないらしい。
「そうです、人がこの世界で道に迷えば一生、現世と常世の狭間を彷徨い続けることになるかもしれません……! 現世で言う、神隠しですよ!」
「え、ちょっと待って、そうなの……?」
黒桜の言葉を聞いたら、途端に花の胸に不安の波が押し寄せた。
(ひとりで来た道を戻ったら現世には戻れないかもしれないって……さすがにそれは、嘘だよね?)
半信半疑で八雲を見ると、八雲は顔色ひとつ変えずに堂々と言い放つ。
「そんなことは俺の知ったことではない」
つまり、ぽん太と黒桜が今言ったことはすべて、真実だということだ。
花の心は、焦りと不安で埋もれてしまう。
(っていうかこの人、全部知ってた上で、今、私をひとりで帰そうとしてたの? だとしたら、性格悪すぎるでしょ……)
真っ青になった花は、もう何も言えなくなってしまった。
ここに泊まるのは嫌だが、かといって神隠しに遭うのも嫌だ。
ではどうすればいいのか──と、考える。
そして花は、ある答えに辿り着いた。