熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(……そうだ)
ぽん太の言うとおりであれば、鏡子を連れていれば花は迷わずに来た道を帰ることができるかもしれない。
「あ、あのっ、鏡子さん──!」
手鏡に戻って、私と一緒に私達が住む世界に帰りませんか?
けれど、花がそう尋ねようとしたとき、鏡子が八雲に詰め寄った。
「お願いします、八雲さん……! 私と花さんを、今日はここに泊めていただけないでしょうか……!」
「え……あ、あの、鏡子さん……?」
鏡子の言葉に、花は言いかけた言葉を飲み込んだ。
突然何を言い出すのかと思ったが、鏡子の必死な様子を見たら口を挟むことはできなくなってしまったのだ。
「花さんが乗るはずだった最終の電車の時刻は、もうとっくに過ぎてしまっています! 今からホテルを探すにしても、外はとても寒いですし、それでなくとも今日は既に、花さんは身も心も疲れ果てているのです……」
そう言うと鏡子は、グッと唇を噛み締めた。
その姿を見ていた花は、鼻の奥がツンと痛んで……今度こそ、言葉を失くして押し黙った。