熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(鏡子さんって、なんだかお母さんみたいだなぁ……)
母の形見の手鏡だからそう感じるのだろうかと花は考えたが、まだ夜は長いのでとりあえずお言葉に甘えて、一足先に熱海の湯を堪能させてもらうことにした。
ずっと貧乏生活で、社会人になっても仕事に追われて旅行などに縁がなかった花は、熱海の温泉に浸かるのはこれが初めての経験だ。
「肌に優しい、弱アルカリ性……」
確か、サンビーチに来るまでに見た案内で、そんな言葉を目にした気がする。
『かの徳川家康公も、生前ふたりの子を連れて、湯治とうじのためにここ熱海を訪れたのですよ』
熱海温泉は無色透明で匂いも香りもないが、保温効果の高さや美肌感が十分に体感できる素晴らしい泉質だ──と、黒桜は誇らしげに語った。
人によって効果は様々だが、健康にも良い効能があるということだ。
「はぁ〜〜〜〜。気持ちがいい上に、身体の中から綺麗になれるなんて最高すぎる……」
ひのきの香りが漂う広々とした浴槽で、手足を伸ばした花は極楽の溜め息をついた。
まるで身体に蓄積していたストレスが湯に溶けて消えていくようだ。
これだけで十分、健康促進の効果を感じられる。