熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(冷え切っていた身体が、芯まで温まっていくみたい……)
額にはじわじわと汗が滲むが、それをザブンと流すのも心地が良い。
貸し切り状態のお風呂はまさに夢心地で、心ゆくまま贅沢な時間を堪能することができた。
『温泉に浸かったあとは、なるべくシャワーなどで身体を流さず、そのままタオルで拭き取るといいですよ。そうすることで温泉の成分が肌に浸透して、より効果的だと言われています』
湯上がりには黒桜に言われたとおりに、特に上がり湯などもしないで身体をタオルで拭き上げた。
そのおかげかどうかは定かでないが、なんだかいつもよりも身体がポカポカしているみたいだ。
用意されていた浴衣に着替え、茶羽織に袖を通した花は、セミロングの髪をゴムでくるりとひとつに纏めた。
そして鏡子の待つ部屋まで急いで戻る。
花は少しでも早く、鏡子にも素晴らしい湯を楽しんでほしいと考えていた。