熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「……いただきます」


 二度目のいただきますを口にした花は、軽く混ぜた中身を、たっぷりのお出汁と一緒にすくい上げた。

 先程はプリプリの新鮮さを売りにしていた鯵だが、今は熱い出汁に浸かって色味を変えている。

 ふーふーと念入りに息を吹きかけ、やや冷ましたら、花はまたパクリとそれを一口で頬張った。


「ん〜〜〜〜っ!!」


 口に入れた瞬間、出汁と鯵の優しい旨味が口いっぱいに広がっていく。

 遅れてワサビのツーンとした辛味が鼻を抜けたが、それもまた味のアクセントにちょうどよかった。


(な、なにこれ……最高っ‼)


 あっさりとした出汁と、新鮮な鯵の相性が抜群である。

 サラサラとした食感と、鯵のコリコリの食感がお茶漬けとしても新しかった。


「これも美味しいです……!」


 花が感動を口にすると、向かいに座る鏡子さんがクスリと笑った。


「ふふっ。花さんは、とても美味しそうに食べるわね」

「あ……す、すみません……っ。落ち着かなくて。でもほんとに美味しいから、つい感動してしまって勝手に声が……」


 花が慌てて謝ると、鏡子は「わかるわ、本当に美味しいものね」と零して微笑んだ。

 
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