熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「外で冷えた身体が、芯から温まっていく感じよね」
「はい! まさにそれです!」
まご茶漬けは美味しいだけでなく、冷えた身体も内側から暖めた。
「それで八雲さん、"三度楽しめる"の最後は、どんな食べ方を?」
次に八雲に尋ねたのは鏡子だ。
鏡子の問いに、八雲は穏やかに目を細めてから、膳の奥に置かれた鯵の干物を指してみせた。
「最後は、こちらの鯵の干物をほぐして、お好みの量をそちらの茶碗に入れて一緒にお召し上がりください」
「鯵の干物を、お茶漬けの具として一緒に?」
「はい。もちろん、こちらの干物はそれだけでも美味しくお召し上がりいただけますが、まご茶漬けとして食べていただくのも一興です」
八雲の声に迷いはない。
結果として、花と鏡子は半信半疑になりながらも鯵の干物へと箸を伸ばした。
そして八雲に言われたとおり、鯵の干物の身を取ろうとして──驚いた。
干物なのに、驚くほど柔らかい。
箸をつけた途端にジュワっと油が染み出た干物の身はふわふわで、簡単にほぐすことができた。
(ほんとに、これだけでも美味しそう……)
花は思わずまたゴクリと喉を鳴らして、鯵の身を箸で掴んで茶碗に移した。
レンゲに持ち替え、茶碗の中で鯵の干物を出汁に浸す。
すると干物から溶け出した油が、キラキラと出汁のなかに四散した。