熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(わ……!)
逸る気持ちを堪えきれず、花はレンゲで中身をすくった。
そして、そっと口に近づけ香りを堪能したあとで、豪快に一口で頬張った。
「ん、んん〜〜〜……っ!!」
声にならない美味しさとは、まさにこのことだ。
鯵の干物の塩気とプリプリコリコリになった鯵のタタキ、そして芳醇な出汁の香りが絶妙に絡み合い、最高の一品に仕上がっている。
ゴクリと飲み込めば、口の中には出汁の旨味が残ってその余韻がたまらない。
早く、もう一口……。
冷めないうちに、もう一口……!
熱いまご茶漬けはその名の通り、まごまごしていられなくなるほどに美味しく、心から幸せになれる一品だった。
「最高に美味しい……」
ぽつりと呟いた花は、自分の鼻の奥がツンと痛むのを感じた。
(ああ、ワサビを入れたから……)
花は、その痛みはワサビのせいだと思った。
だけど──違った。
鼻に触れた花の手は、何故かじんわりと濡れていた。