熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


(わ……!)


 逸る気持ちを堪えきれず、花はレンゲで中身をすくった。

 そして、そっと口に近づけ香りを堪能したあとで、豪快に一口で頬張った。


「ん、んん〜〜〜……っ!!」


 声にならない美味しさとは、まさにこのことだ。

 鯵の干物の塩気とプリプリコリコリになった鯵のタタキ、そして芳醇な出汁の香りが絶妙に絡み合い、最高の一品に仕上がっている。

 ゴクリと飲み込めば、口の中には出汁の旨味が残ってその余韻がたまらない。

 早く、もう一口……。

 冷めないうちに、もう一口……!

 熱いまご茶漬けはその名の通り、まごまごしていられなくなるほどに美味しく、心から幸せになれる一品だった。


「最高に美味しい……」


 ぽつりと呟いた花は、自分の鼻の奥がツンと痛むのを感じた。


(ああ、ワサビを入れたから……)


 花は、その痛みはワサビのせいだと思った。

 だけど──違った。

 鼻に触れた花の手は、何故かじんわりと濡れていた。

 
< 66 / 405 >

この作品をシェア

pagetop