熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「あ、あの……っ。色々、本当にありがとうございま──」

「ということで、泣きやんだならさっさと寝ろ」

「え……?」

「付き添いの付喪神もいなくなったのだから、明日は早くに出ていってもらうからな」


 けれど、花の考えは次の瞬間には粉々に砕かれた。

 そこまで言うと八雲は颯爽と踵を返し、一度も振り返ることなく部屋をあっという間に出ていってしまう。


(な、なに、これ……?)


 残された花は呆然と八雲が出ていった扉を見つめた。

 一瞬でもあの男を見直した自分がバカだった。

 しかし、八雲のお陰で後悔が晴れたのは確かで、そう思うと花はなんとも言えない気持ちになった。



 ♨ ♨ ♨



「ん〜〜〜……よく寝た……」


 翌朝、目を覚ました花の心はやはり、晴れていた。

 こんなにもグッスリと熟睡したのはいつぶりかもわからない。


 
< 78 / 405 >

この作品をシェア

pagetop