熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(ここ最近は、いろんなことがありすぎて、あんまり寝れなかったしなぁ……)
昨夜、極上の温泉に浸かり美味しいものを食べて、泣きたいだけ泣いてスッキリしたお陰だろう。
鏡子がいなくなってしまったことに寂しさは感じるが、付喪神にとって幸せな成仏ができたのならと納得もできた。
「……またいつか、会えるよね」
鏡子の入っていた金襴袋を抱き締めて寝た花は、それを手に取りそっと微笑んだ。
『ええ。またいつか、必ず』
すると不思議と鏡子の優しい声が聞こえた気がして、胸には温かい灯火が点ったような気持ちになる。
「おっ、はようございまーす‼」
「お客様、昨夜はよく眠れましたか⁉」
「わぁっ⁉」
けれど、花が鏡子に思いを馳せていたら、予告なく部屋の扉が開かれた。
現れたのは、ぽん太と黒桜のふたりである。
寝起きの花の目は完全に冴え、突然現れたふたりを見て面白い顔で固まった。
「なんじゃなんじゃ、その笑える顔は。しかし、昨夜はよく眠れたようで良かったのぅ」
(やっぱり、全部夢じゃなかったんだ……)
一夜明けても、ぽん太はもふもふのしゃべるたぬきだ。
何故か満面の笑みで腕を組んで頷くぽん太を前に、花は慌てて姿勢を正した。