熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「今の時期のおひとり様のご宿泊料は、善ポイント半年分になります」
「善……ポイント?」
「はい。鏡子さんとのおふたり分であるなら、善ポイント一年分ということになりますね」
善ポイントというのは、花には聞き覚えのない言葉だった。
黒桜の言っていることの意味がわからず、花は首を傾げて質問を投げかける。
「すみません……その、善ポイントってなんですか?」
「はい。簡単に言えば現世で言う"お金"ですね。付喪神たちは日頃、現世で何かのために働き"善ポイント"を稼ぐのです。そして貯まったポイントを使って、ここ極楽湯屋つくもに日頃の疲れを癒やしにいらっしゃいます」
「じゃから花も、善ポイントを払わないと無銭飲食、無銭宿泊になってしまうということじゃ」
黒桜とぽん太の言葉に、花は驚いて目を見張った。
「で、でもっ。私は付喪神じゃないから、善ポイントなんて持ってないし……。そもそもそんな話、泊まる前にはしてなかったじゃないですか!」
慌てて花が抗議をすると、ぽん太と黒桜は白々しく首を傾げた。
「あれぇ〜、言わなかったかのう? 黒桜?」
「ええ。どうでしたかね、覚えておりません」
ふたりは完全にとぼけている。
付喪神のくせに人に嘘をつくとは何事かと花はツッコみたくなったけれど、そういえば昔……母がまだ生きていた頃に、「もったいないオバケは人にイタズラする生き物なのよ」なんて言っていたような気もする。