熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「じ、地獄行きとか絶対嫌です……!」
 

 人を呪わば穴二つ。

 これはもしや、昨夜、八雲の腕の中で杉下に対してお前があの世に行け、などと喚き散らしたせいだろうか。

 兎にも角にも死んだあとのことなどはよくわからないが、地獄という響きは嫌な気配しかしない。

 花が叫べば、ぽん太が「そうだらぁ」と頷いてから、改めて話しの続きを口にした。


「じゃから今わしと黒桜が言ったとおり、八雲の嫁兼仲居として、ここで一年分の善ポイントを稼ぐしかないら」

「そうです、花さんに残された道はもうそれしかありません」


 ぽん太と同じく頷いている黒桜を前に、花はまた心に引っ掛かりを覚えた。

 宿泊代金を払うためには、ここで働いて一年分の善ポイントを稼がなければいけないことは理解した。

 それをせずに現世に戻ったら、行く行くは地獄行きになることも花は理解したつもりだ。

 
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