熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「……とりあえず、善ポイントを稼ぐために仲居として働かなきゃいけないことはわかりました。でも、なんで八雲さんの嫁にならなきゃいけないんですか」
働くだけなら八雲の嫁になる必要はないだろう。
そう思う花の意見は至極真っ当で、自分が八雲の嫁になるなど真っ平ごめんだと言いたかった。
「ただの人である花がここにいるためには、常世の神を納得させる理由が必要なんじゃよ」
「常世の神を納得させる理由……?」
「はい。通常、"人"は現世のみで生きている存在ですから、ここに来ることはできません。ですから、花さんがここに居続けるには"特別な理由"が必要なんです」
黒桜の補足を聞いた花は、とうとう頭を抱えたくなった。
「いいですか。つまり、つくもの主人である八雲坊のお嫁様になれば、花さんが"ここにいる理由"ができるということです」
「あー……なるほど」
(……って、ちっともなるほどじゃない!!)
花は思わず心の中でツッコんだ。
すると今の今まで黙りこくっていた八雲が得意の舌打ちを鳴らし、ぽん太と黒桜に反論した。
「俺はこんな女が嫁になるなど、絶対に認めないからな」
断固たる拒絶だ。
もう少しオブラートに包めないものかと花は思う。
しかし花もまた、八雲の嫁になりたいわけではないどころか断固拒否の姿勢は同じなので、「うんうん」と大きく首を縦に振り、応戦した。