熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「よっし。今日も一日、がんばろう!」
つくもの夜明けは現世での時間軸に等しく、日の出とともに訪れる。
現世でも常世でもないこの場所にもどういう理屈か朝陽は届き、手入れの行き届いた庭には光の雨を降らせていた。
仲居である花が朝起きてまず取り掛かる仕事は、掃除である。
それは当日の宿泊客のあるなしに関わらず、常に館内を美しく保つための基本中の基本だと教わったばかりだ。
(確か今日は、宿泊予約は入ってないんだよね……)
大抵の付喪神が訪れるのは現世での仕事を終えた、夕方以降になることが常らしい。
ただこれも現世に同じく宿泊予約が集中するのは週末で、平日の丸々五日間、予約がないのも珍しくはないということであった。