熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「ハァ……」


 再び、花の口から溜め息が漏れた。

 今、この場で先のことばかりを考えても仕方がない。

 まずは目の前にあることから、ひとつずつこなしていく以外に、花にできることは何もないのだ。


(……よしっ)


 なんとか気持ちを切り替えた花は顔を上げると、真っすぐに伸びた廊下を見つめた。

 静寂に包まれた廊下は、朝の暖かな日差しが降り注いでいて美しい。

 花は一度だけ大きく深呼吸をしてから、足を前へと踏み出した。

 ふいに吹いた風は冷たく足元を冷やしたが、気づかぬふりでやり過ごした。





「おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」

「おおー、時間通りじゃのぅ。感心感心」


 花がまず訪れたのは、昨日ぽん太に指定されていた玄関ホールだった。

 神術らしき何かでロボット掃除機のように雑巾を動かしているぽん太は呑気に、上がり框に座りながらお茶をすする余裕っぷりだ。

 
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