熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「わかるわかる。歩くのも面倒なときもあるしのぅ」

「歩くのが面倒って、身も蓋もない……」


 花は思わず溜め息をついた。

 ぽん太も黒桜も付喪神の割に神様らしい威厳はあまり見られず、妙に人間臭いところがある。

 かと思えば今のように驚かせてきたり、微妙にデリカシーに欠けるところもたまに傷だ。


「しかし、花が初めてもてなす客が虎之丞とは、いささか難儀よのぅ」


 モフモフの尻尾を左右に揺らしたぽん太が、うーんと小さく唸り声を上げた。

 黒桜も難しい顔で瞼を閉じて、考え込むような仕草を見せる。


「難儀って、その虎之丞さんがですか?」


 ようやく動悸が落ち着いてきた花が尋ねると、ぽん太は持っていた湯呑みに入った緑茶をズッとすすって、物憂げに眉根を寄せた。

 
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