熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「難しい人……というかまぁ、そもそも人ではなく付喪神じゃからのぅ」
 

 不安げな花に対して、のほほんと答えたぽん太は尻尾をゆらゆらと左右に揺らした。


「それなら、その虎之丞さんは、そんなに難しい付喪神様なんですか?」

「まぁ……簡単に言うと虎之丞殿は、食にうるさく、機嫌を損ねると必ずくどくどとお説教を垂れる、いわゆるクレーマー風情な頑固ジジイなわけですよ」


 饒舌に答えた黒桜の物言いは、客に対する言葉にしたら随分遠慮のないものだった。

 目を丸くした花を見て黒桜は苦笑いを零すと、着物の袖で自身の口元を隠してしまう。


「失礼。いえ私もね、前回虎之丞殿がいらしたときは、予約の際の電話口での言葉遣いがなっていなかっただの、部屋まで案内するのが遅すぎるだの、それはもう延々とクレームの嵐……いえ、良いお勉強をさせていただいたのですよ」


 つまり、黒桜も虎之丞の被害者というわけだ。

 納得する花を他所に、またズズッと緑茶をすすったぽん太は「うーん」と唸ってから、モフモフの耳をピクリと動かした。

 
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