メヌエット ~絵里加
「絵里加、愛している。」
絵里加の頭を もう一度 胸に抱く。
「絵里加も。」
絵里加は、囁くように言う。
絵里加に触れていたくて、離したくなくて。
しばらくじっと抱いている。
でも絵里加の髪の香りが 健吾を突き抜けて また唇をふさいでしまう。
激しく、情熱的に。
健吾が静かに目を開けると、絵里加の目から流れる涙が見えた。
初めての絵里加は、きっと戸惑っている。
未知の幸せと恐怖に。
衝動に身を任せてしまった健吾は 深い反省を込めて もう一度絵里加を抱きしめる。
「ごめんね。驚いたね。」
優しく髪を撫でると、絵里加は泣きじゃくってしまう。
「ごめんね。泣かないで。」
健吾は、そっと絵里加の髪を撫で続ける。
「違うの。絵里加、自分が怖いの。」
絵里加は、泣きながら言う。
「いいよ。何も言わないで。」
しばらく抱いていると、絵里加の呼吸が落ち着いてくる。
そっと絵里加の肩を起こす。
絵里加は涙で濡れた目で、健吾を見つめる。真っ直ぐに
「絵里加は20才だから。大人になったからね。大人のキスをしたんだよ。」
健吾は優しく言う。絵里加をじっと見つめて。
「絵里加、力が抜けて、自分じゃないみたいで、怖かったの。」
絵里加は素直に言う。
「それでいいの。それが、大人だからね。」
健吾は 言葉とは逆に 子供を諭すように優しく言う。
絵里加の背中を撫でながら。
「ケンケンは、まだ19才のくせに。」
絵里加は 恥ずかしさを隠すように 少し膨れて健吾に言う。
「可愛い。もう一度、キスしてもいい?」
小さく頷く絵里加の唇を、健吾はふさぐ。
甘く応える絵里加は、もう涙を流さなかった。