メヌエット ~絵里加
絵里加が家に入ると、父が食事を終えたところだった。
母はキッチンを片付けていて、父はソファでコーヒーを飲んでいた。
「ただいま。パパ。ケンケンに指輪をもらったの。見て。」
絵里加は、自分でも驚くほど無邪気な声が出た。
「よかったね、絵里加。どれ、見せてごらん。」
父の前で広げた絵里加の手を取る。
「可愛い指輪だね。よく似合うよ。」
父は笑顔で言う。キッチンから母も来て、
「ママにも見せて。本当、可愛いわ。パールは絵里ちゃんの誕生石じゃない。」
と優しく言ってくれる。
「そうよ。ケンケン、ちゃんと調べてくれたみたい。だからミキモトで選んだの。」
やましさを隠して、饒舌になってしまう絵里加。
「いい誕生日だったね。そうだ、絵里加。20才、おめでとう。」
父は優しく言う。
少し寂しそうに感じたのは、絵里加が秘密を持ったから。
母も笑顔で、父に続く。
「本当。絵里ちゃん、おめでとう。20年って、あっと言う間だわ。」