メヌエット ~絵里加

絵里加が家に入ると、父が食事を終えたところだった。

母はキッチンを片付けていて、父はソファでコーヒーを飲んでいた。
 
「ただいま。パパ。ケンケンに指輪をもらったの。見て。」

絵里加は、自分でも驚くほど無邪気な声が出た。
 
「よかったね、絵里加。どれ、見せてごらん。」


父の前で広げた絵里加の手を取る。
 

「可愛い指輪だね。よく似合うよ。」

父は笑顔で言う。キッチンから母も来て、
 
「ママにも見せて。本当、可愛いわ。パールは絵里ちゃんの誕生石じゃない。」

と優しく言ってくれる。
 

「そうよ。ケンケン、ちゃんと調べてくれたみたい。だからミキモトで選んだの。」

やましさを隠して、饒舌になってしまう絵里加。
 


「いい誕生日だったね。そうだ、絵里加。20才、おめでとう。」

父は優しく言う。

少し寂しそうに感じたのは、絵里加が秘密を持ったから。

母も笑顔で、父に続く。
 


「本当。絵里ちゃん、おめでとう。20年って、あっと言う間だわ。」
 


< 106 / 207 >

この作品をシェア

pagetop