メヌエット ~絵里加
翌日、朝のホームで “おはよう” を言う健吾の目は、決意を秘めた輝きだった。
健吾も昨夜、お父様と話したことを、絵里加は悟った。
「おはよう、ケンケン。」と言う絵里加の、花のような笑顔に、
「絵里加も、パパから聞いてくれたね。」と健吾は言った。
「うん。絵里加、とても驚いたわ。ケンケンのお父様に、感謝でいっぱいよ。」
昨夜の不安な涙が嘘のように、健吾の顔を見れば希望しか感じない。
「絵里加の家と離れてしまうけれど、大丈夫?」
健吾は少し、心配そうに言う。
「もちろん。絵里加、お嫁に行くんだからね。それに、そんなに遠くないし。」
絵里加はニコっと笑う。
「ありがとう。今日の帰りに 代官山で降りて 場所を見て来ようね。俺達が気に入れば 話しを進めるって言っていたから。」
絵里加は、コクリと頷いて健吾の腕をつかむ。
「絵里加、いっぱい感謝して、いっぱい頑張るよ。」
絵里加の温かい手が、健吾の腕を揺らす。
健吾は愛おし気に、絵里加を見つめ、
「俺も。早く一人前にならないと。」
「絵里加はね、ケンケンが安心して仕事ができるように、おうちを整えるからね。」
「試験が終わったら、家の相談を始めようね。」健吾は、優しく言う。
「試験。忘れていたのに。」
絵里加は頬を膨らませて、健吾を見上げる。
そんな絵里加の髪に、健吾は優しく触れる。
そして、耳元で小さく “愛している” と言った。