メヌエット ~絵里加
帰り道、二人は代官山で電車を降りた。
健吾は、だいたいの場所を聞いていた。
北口に出て、おしゃれな商店街を抜ける。
少し歩くと、閑静な住宅街の一角に出る。
「多分、この辺。」
と言いながら、歩いていると きれいに整地した更地があった。
「あ、ここだ。」健吾は言う。
駅から歩いて7~8分。思った以上の広い土地。
これなら陽当たりのよい家が建てられそう。
接道も広く、車の出し入れもしやすい。
「すごく、良い所だね。広いし。」絵里加は笑顔で言う。
こんな良い場所に家を建てて、結婚生活ができるなんて。
「二人で、一生住む場所だからね。良く見てね。」健吾は慎重に言う。
でも、笑顔がこぼれていて 健吾も満足していることが 絵里加にはわかった。
「お庭で、子供と遊ぶケンケンが 想像できるみたい。」
絵里加の家の庭は狭い。
でも、お祖父様の家に行くと、よく庭で遊んだ。
「俺と絵里加の子供。何人ほしい?」
まるで、おままごとのような二人。
生活力もない二人なのに。
それは 二人が特別な 選ばれた二人だから。
大学も卒業していないのに、何億円ものおもちゃを与えられる。
「二人かな。男の子と女の子。」絵里加も、遠い目で答える。
「3人姉妹もいいね。」健吾も笑顔で言う。
「パパの居場所、なくなるよ。」
3人姉妹のひとみのパパは、いつも娘達に 疎外されていると言っていたから。
「絵里加がいれば、どうなってもいいよ、俺。」
健吾は、突き上げるような目で言う。
「絵里加も。」薄明るい夕暮れ。
抱き合いたい衝動を抑えて、二人は土地の前に佇む。