メヌエット ~絵里加
絵里加の母は、昨夜絵里加と話した後で 旅行の提案を父にした。
まだ結ばれていない二人。
親公認になったために、旅行もできない二人。
でも、絵里加の結婚を許すのなら 身も心も 結ばれてからの方がいいと思ったから。
それも大切なことだから。
絵里加が傷つかない形で、健吾と結ばれてほしい。
二人で ゆっくり時間をかけて、愛を確かめてほしい。
海外は、それにぴったりだから。
「私達、最初は箱根だったでしょう。とても嬉しかったの、私。初めてが 私のアパートやそういうホテルじゃなくて。智くんの心使いを感じたわ。だから 絵里加にも綺麗な思い出にしてほしいの。」母が言う。
「ケンケン、随分我慢していると思うよ。男だから。そうだね。そろそろ良いかもね。」
父も、優しく言う。
もう健吾に心を奪われている絵里加。
体も奪われるのなら できるだけ優しく 絵里加も美しい思い出にできるくらいに。
どれほど過保護なんだろうと思いながら。
こんなに親馬鹿でいいのかと思いながら。
お膳立てをしないでは、いられない父と母。
それは健吾が、絵里加を守っていることがわかるから。
絵里加の親に遠慮して、絵里加を奪えないでいたから。