メヌエット ~絵里加
渋谷区南平台に住んでいる健吾とは、小学生の頃も一緒のバスで帰った。
明るく、ひょうきんな健吾は バスの中でも冗談を言って 絵里加や陽子を笑わせてくれた。
中学では一度も同じクラスにならず 高校は男女が別々の校舎になったので 何となく距離ができていた。
大学は同じ学部で 講義も重なっていたけれど。
こんな風に二人きりで話す機会はなかった。
「絵里加、すごい人気だね。どうして誰とも付き合わないの?」
しばらく講義の話しをした後の、会話が途切れたタイミングに 健吾が聞く。
「そんな人気じゃないよ。絵里加、好きな人いないし。ケンケンは彼女いるの?」
絵里加は軽く頬を膨らませる。
健吾は、またフッと笑う。
昔は、ゲラゲラ笑っていた健吾なのに。
絵里加は新鮮な驚きで健吾を見つめる。