メヌエット ~絵里加
「俺は、いいの。」
健吾はそう言って、温かい笑顔を絵里加に向けた。
絵里加はなぜか、ドキっとしてしまう。
健吾の大人っぽい笑顔に。
「絵里加はこのままでいいのに、回りで色々言うんだもの。」
絵里加は少し俯いて言う。
「絵里加はモテるから。みんな、必死で狙っているんだよ。」
健吾は、またフッと笑う。
「絵里加は、獲物じゃないから。」
絵里加が口をとがらせると、健吾は初めて声を出して笑った。
「男にとっては、獲物かもね。」
「ひどいな。ケンケンも、そんな風に思っているの?」
絵里加は健吾の目を、真っ直ぐに見つめる。
一瞬、目が合った後、健吾は先に目を逸らした。
「まさか。悪いハンターに、捕まらなければいいなって思っているよ。」
一瞬、絵里加の胸が コトンと鳴った。絵里加は戸惑う。
「ありがとう。」
何故、そんな風に言ったのか 自分でもわからない。
初めて感じた、甘いときめき。
絵里加は、少し顔を伏せる。
「どういたしまして。」
健吾も、場違いな返事をする。
思わず顔を上げて、健吾を見つめる。
優しく絵里加を見つめる健吾。