メヌエット ~絵里加
絵里加に合せて ゆっくり走って 滑り込んだ教室。
二人、別々の友達が待っている。
「絵里加、こっち。」ひとみが小声で呼ぶ。
「珍しいね、絵里加が遅いって。」陽子も言う。
ギリギリ間に合った講義。
『全然、余裕じゃないよ』と絵里加は、息を切らせる。
出席カードが配られて、教室がざわざわする。
そのタイミングで絵里加のスマホがバイブする。
そっと机の下で、画面を開くと
《ごめん、今日はギリギリでした》
と健吾からのLINEだった。
絵里加は、ふっと温かい気持ちになる。
《次からは、11分の電車だよ》と返す。
たった一言ずつなのに、甘い気持ちになる。
男の子とのLINEなんて 何回もあるし 普通の内容なのに。
何でこんなに特別なんだろう。
ざわめく教室の中の、同じ空間にいる二人。
あえてLINEで交わす会話の秘密めいたときめき。
絵里加は頬を染めてしまう。