メヌエット ~絵里加
「やっぱり、やだ。絵里加、男の子産む。」
絵里加は、小さく頬を膨らます。
「どうして。」
「だって、ケンケンが 絵里加より可愛がったら嫌だもの。」
健吾は左手で、そっと絵里加の頭を抱く。
「ヤキモチ妬いているの。可愛い。安心して。絵里加が一番だよ。」
「本当に?でも、絵里加 男の子だけ産むの。ケンケン二世。」
健吾の肩に寄り掛かって絵里加が言う。
「俺も何か嫌だ。絵里加が男の子抱くの。やっぱり絵里加二世にして。」
二人は甘く笑ってしまう。
「パパとママも、今の絵里加達みたいに思っていたのかな。」
絵里加がふっと言う。
「そうだね。だから絵里加は、大切に育ててもらえたんだね。」
恋をしたことが 二人を少し大人にする。
親への深い感謝に気付く。
「パパとママが 絵里加を産んでくれたから ケンケンに会えたんだね。」
絵里加の温かい発想に 健吾は感動していた。
そんな風に思える絵里加だから 好きになった。
「絵里加。優しいね。大好きだよ。ずっと絵里加のこと、大切にするよ。絵里加二世のことも、大切に育てるよ。」
「そしたら いつか 絵里加達も子供にありがとうって言われるね。」
まだ絵里加は 両親にありがとうを言っていないけれど。
大好きな両親で いつも感謝していたけれど。
健吾と付き合って、感謝の思いは深くなっていたから。
「絵里加、行先変更していい?」
八王子の辺りで健吾が言う。
「いいよ。どこに行くの?」
絵里加は笑顔で聞くと、
「軽井沢。絵里加のパパとママの顔を見に行こう。」
健吾の優しさに 絵里加は涙が溢れる。
小さく“ ケンケン” と言って声が途切れた。
健吾は、八王子ジャンクションで圏央道に入り 軽井沢に向かった。