メヌエット ~絵里加

絵里加のささやかな変化に 気付いていたのは 友達だけではなかった。
 
「最近の絵里ちゃん、楽しそうね。何か良い事あったの?」

健吾と一緒に行ける朝は つい笑顔がこぼれてしまう。

そんな絵里加を 温かく見つめる母。
 

「やだ。何もないわよ。ママ、行ってきます。」

絵里加はドキドキして、家を出る。
 

渋谷駅のホーム。いつも乗る場所に、今日は 健吾の方が早い。
 
「おはよう。ケンケン、早いね。」

そっと横に並んで、絵里加が声を掛ける。
 
「おはよう。」と微笑む健吾。

一瞬の瞳に、熱い思いを感じてしまう。


上手い言葉を見つけられずに、絵里加は 肩をすくめて微笑む。

健吾は、敏感に感じとって

『んっ?』という目で、絵里加を見る。
 

「今 出る時 ママに、最近楽しそうねって 言われちゃった。」

絵里加は 正直に言う。少し照れながら。

健吾の瞳が、優しくなる。
 

「本当は?楽しい?」

いたずらっぽい笑顔で聞かれて。
 
「意地悪。」

と小さく言って絵里加は俯く。

健吾は、絵里加の頭に手を乗せて
 
「ごめん、ごめん。」と笑う。


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