メヌエット ~絵里加
とても幸せで。胸が温かくて。
でもドキドキするのは、慣れていないから。
そして、この幸せを知ってしまった途端に 失うことが怖くなる。
いつまでも、このままでいたいと望んでしまう。
切なさが胸に溢れ 絵里加の瞳は 潤んでいた。
「わあ。海。」堤防を降りると、波音が大きくなる。
絵里加は 健吾からすり抜けて 波打ち際まで走る。
腰を落として水に触る。
「冷たい。」振向いて笑う絵里加に 健吾も笑顔になる。
健吾は、スニーカーと靴下を脱いで、コットンパンツをまくり上げる。
「冷たいね。」足を海につけて笑う。
「絵里加も入る。」
脱いだサンダルを 健吾の靴に並べると 絵里加も健吾に近付く。
「きゃっ。冷たい。」無邪気に笑う。
「絵里加、波来るよ。」
健吾に言われて、絵里加は避ける。キャアキャア言いながら。
「わあ。足取られそう。」
波が引いて、濡れた砂が足をすくう。
「くすぐったいね。」健吾も、声を出して笑う。
少し奥まで入っては 波を避けて走り。
また波が引くと、奥に入る。そして二人、ケラケラ笑う。
波の音も、潮の匂いも、キラキラ輝く水面も、全てが幸せだった。