メヌエット ~絵里加

「俺も、絵里加のママのこと、覚えているよ。優しそうな美人だよね。」

おしゃれな盛り付けの料理に、歓声を上げながら話す。
 
「自慢のママだよ。絵里加 大好きなの。」

幼いと思うような言葉を 素直に言える絵里加だから 健吾は惹かれたのだ。
 

「パパは?怖い?」

健吾は、やっぱり緊張している。

ただの恋人なのに わざわざ両親に挨拶をしてくれる。


知らん顔で、絵里加を連れ回すこともできるのに。
 
「怖くないよ。優しいし、話しやすいよ。絵里加の好きな人が、ケンケンで安心していたよ。」

“好きな人” と言ってから、絵里加は照れてしまう。


少し俯いて、上目使いに健吾を見ると、
 
「ありがとう。」と言ってくれた。

健吾の瞳から滲む 温かい愛情に 絵里加の胸は熱くなる。


肩をすくめる絵里加の、可愛らしさに健吾の愛情が溢れだす。
 


「絵里加、可愛いな。俺 絵里加のパパに恨まれるだろうな。」

健吾は、フッと笑う。
 
「そんなことないよ。絵里加だって、いつかは大人になるから。」


両親の巣から 飛び立つ日が やがて来るから。

父と母は、絵里加を 健全に自立させる為に育ててきたから。


両親の温かい巣を、飛び出すことは怖い。

陽だまりの中は安全で、傷つくことも少なくて。


でも、手を引いてくれる人がいるから。


両親と同じくらい、温かな愛情で。



だから一歩前に進むことができる。
 



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