メヌエット ~絵里加

「ケンケンね、中学くらいから ずっと絵里加が好きだったらしいよ。」父は言う。
 
「やだ。いつそんなこと話したの?」

絵里加も聞いたことがない話し。
 

「パパの魔法にかかると、みんな喋っちゃうのよ。」

母の言葉に、絵里加は父を見る。
 
「でもね、絵里加が恋とか 興味なさそうだったから ずっと待っていたんだって。」


絵里加だって、恋に興味はあった。

でも、それは、恋に恋するような気持ち。

小説の中の、純愛に憧れるような。
 


「最近、絵里ちゃんが少し 大人っぽくなってきて ケンケンも焦ったらしいわよ。」

母は、父の言葉を付足す。
 
「ちょうど、二人で話すタイミングがあったから 思い切って声をかけたんだって。」

健吾は、どこまでも正直に 父に話していた。
 


「その時絵里加は ケンケンが大人っぽくなっていて 驚いたの。」

絵里加も、父に魔法をかけられている。
 

「これからも ゆっくり 絵里加のペースで付き合いたいって言っていたよ。」

父は、優しい目で絵里加を見る。
 
「絵里加は 家族の宝物だけど ケンケンにとっても 宝物だからって。パパはうれしかったよ。」

やっぱり絵里加は、涙汲んでしまう。
 

「絵里ちゃんと同じ年なのにね。絵里ちゃんのことを一番に考えてくれて。ケンケン偉いわね。」

母は優しく絵里加の肩を抱く。

絵里加の瞳からは今にも涙が溢れそうで。
 

「ずっと一人で 絵里加を思って 自分を抑えてきたから。絵里加と気持ちが通じただけで、十分だって。」

父の言葉に絵里加は、母の肩に顔を伏せる。

涙が溢れて、母の肩を濡らす。
 

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