メヌエット ~絵里加
「絵里ちゃんも、泣いてばかりいては駄目よ。ケンケンの為に何ができるか、ちゃんと考えないとね。」
母は、優しく絵里加の肩を叩く。
「ハハハ。ママも泣き虫だったくせに。」
父の笑い声に、絵里加は顔を上げる。
「ママも、絵里加みたいに 悲しくなくても涙が出たの?」
涙に濡れた瞳で、絵里加は聞く。
「そう。すぐに泣いて 泣き虫麻有ちゃんって お祖母様に言われていたんだよ。」
父が笑うと、
「パパ。余計な事、言わないで。」と母は、父を睨む。
「絵里加ね、幸せすぎて怖いの。ケンケンと目が合うだけで、涙が出ちゃうの。」
大人への階段を登りはじめた絵里加。
履きなれない靴を履いたような感触。
そんな絵里加を 父と母は 愛おし気に見つめる。
その先には、未知の幸せがあるから。
「ママもね、パパと目が合うだけで、ウルウルしていたよ。」
父は、いたずらっぽい笑顔で言う。
「パパ。」と母に止められて。
「ねえ。パパとママの話しを聞かせて。パパとママも、ずっと一緒にいたいと思っていたの?」絵里加は聞く。
「もちろんだよ。でも離れている時間も、ママの存在が支えになってね。心が繋がっているって信じられたから。」
父は、はぐらかさずに話してくれる。
「どうして。どうして、信じられたの?」
まるで小さな女の子みたいに、絵里加は聞いてしまう。
「ママは、いつもパパのことを考えていてくれたから。パパが何を望んでいるか、だからパパも、一生懸命ママのことを考えたよ。ママの為に、何ができるか。」
父は、絵里加が子供の頃と同じように、言葉を選んで話してくれる。
「ケンケンも、絵里ちゃんのことを 色々考えてくれるじゃない。今日、うちに来てくれたことも。」母も言ってくれる。
「みんなに愛されて、みんなで守ってきた絵里加だから ケンケンも大切に守りたいって言ってくれたよ。」
父に言われて、絵里加は頬を染める。
「絵里ちゃんも ケンケンを信じて ケンケンの為に できる事を頑張るのよ。ケンケンは、きっと素敵な大人になるから。」
母の言葉に、絵里加は、さっきのLINEを思い出す。
「ケンケンが、絵里加のパパ素敵だって。パパみたいになりたいって。」絵里加は言う。
「よし、軽井沢では 美味しいお肉 たくさん食べさせてあげようね。」
父は、嬉しそうに笑う。